『正論』編集長インタビュー

城山三郎氏が折り紙つけた政治家
厚生大臣小泉純一郎/聞き手・大島信三

−−作家の城山三郎さんが、産経新聞(十月二十六日付)の加藤芳郎さんとの対談で、「皆、政治屋です。政治家らしいのは小泉さんくらいだ」と誉めていました。それでお会いしたくなりました。

 小泉 産経新聞を読んでびっくりしちゃった。嬉しかった。

 私は城山三郎さんの本が好きなんですよ。『男子の本懐』という浜口(雄幸)総理を描いた小説があります。あのとき祖父(小泉又次郎)は浜口・若槻内閣の逓信大臣だった。『男子の本懐』の中に祖父が出てくるんですよ。で、浜口総理を応援している。

 ほかに『落日燃ゆ』『硫黄島』『鼠』など、城山さんの作品はいろいろ読んでいるんです。

 −−城山さんと面識はありますか。

 小泉 ええ、講演で来たときに。福田赳夫先生がお元気なときにわれわれ議員の会合で講師をされた。

 −−城山さんはあの対談で、「これからは小泉さんみたいな人が総裁になるような政党じゃないとダメだね。小泉さんは政党つくればいいんだよ」とも述べていました。新党、考えたことがあります?

 小泉 それはないです。べつに総理になろうと思ってないし。

 −−手っ取り早いのは、三塚派を継承すること。

 小泉 そういうことは全く考えてない。

 総理を目指すと、変なスケベ根性が出てくる。あの人にも、この人にも頼まなきゃならない。いろんな借りができちゃう。なっても、そういうしがらみで何もできなくなる。

 私は子分になりたくないし、ほかの人だって私の子分になりたくないと思うんだ。

 −−私兵を養う気はないですか。

 小泉 派閥の親分なんて、もう煩わしい。私は二年前、自民党総裁選の候補になったでしょう。あのときだって、まさか、まさかです。

 −−平成七年一月、橋本(龍太郎)さんと争いました。

 小泉 私は、あのとき河野(洋平)さんを推していたんです。河野さんが途中で下りるなんて、全然、想定してない。

 三塚派のなかで、私は河野選挙対策事務所の事務局長みたいな存在でした。総裁選挙の出陣式ではだれに挨拶してもらおうかとか、そんな案を練っていたんだ。それなのに、突然、河野さんがやめるという。びっくりしました。

 −−あれは意外でした。河野不出馬ですぐ決意しましたか。

 小泉 いやいや。準備もなにもないんですよ。そのあと私は、「森(喜朗)さん、出ろ」と薦めたんです。結果的に森さんは出馬せずに、私にお鉢が回ってきた。

 橋本内閣ができたときも、私は三塚派の事務総長という立場で、(派閥の)入閣候補の人をどうやって入閣してもらおうかと考えていた。自分が大臣になる気は全くない。

 −−派閥の事務総長というのは、大臣になりたい人を……。

 小泉 押し込む立場です。総裁選では、相当橋本さんにはきついこといってたんだな、おれ。十月の総選挙前には、「総理はまだ竹刀を振り回している。早く真剣を持ってください」といったんだ。

 −−行革に対して。

  小泉 そうです。真剣というのは、郵政三事業の見直しだ。総理がムッとするような、いやなことをいっていたわけだ。

 選挙が終わって、私に入閣要請があるなんて夢にも思っていなかった。そのとき私はことわって、あの人がいいと推薦したぐらいだ。それでも、どうしてもと。

 −−最初から厚生大臣ですか。

  小泉 郵政大臣じゃなくて、厚生大臣になってくれということだった。それで私は加藤(紘一)幹事長にいったんだ。どうしてもというなら引き受けるけれども、国務大臣として郵政民営化論は撤退しませんよ。大臣になっても発言し続けます。ご迷惑をかけることになりますよ。

 そういえば断るだろうと、加藤幹事長にそう総理に伝えてくれといった。総理は、それでもいいといって私を入閣させた。

 −−ほう、いったんは辞退したのですか。大臣待ちの議員が聞いたら、カッとするでしょうね。

  小泉 当時、党内はほとんど私に反発していた。あんな民営化論をいっている間は、党の役員にも大臣にも絶対させないと。総裁選挙で橋本さんをかついだ人たちは主流派ですから、小泉を徹底的に干してやるといっていた。それが思いがけなく総理が引っ張ったんですよ。

 −−橋本さんもたいした度胸だ。

 小泉 橋本さんをかついでいた人たちが最もいやがっている小泉を総理はかつぎ出した。何がこうさせたのか、わかりませんよ、私だって。

 −−小泉さんの実行力に期待したのでしょう。

 小泉 まあ、穏やかな年功序列の時代だったら、とても私を起用しようという気にはならない。いまは非常時なんだろうね。

 −−しかも改造内閣で留任。

 小泉 留任だからね。

 いま郵政の民営化を主張しているのは小泉一人だけだ。自民党だけじゃない。全政党が反対。四十七都道府県のうち四十五県議会が反対決議。そういう状況にもかかわらず、小泉の主張を入れないとまずいなという雰囲気になってきている。

 −−これだけ買われながら、橋本さんを困らせる発言をなさる。郵政民営化の突破口が開かれなければ、ほんとに辞任するんですか。それともこけおどし?

 小泉 おどしでもなんでもないですよ。私が辞任するような結論を、総理がくだすはずはないと信じている。ほんと、信じているんですよ。

 総理の力って大きいんです。それを総理は気づいてほしい。普通ね、党内の大勢は私を閣僚に推薦する雰囲気じゃなかった。総理が起用するというから、反対勢力も黙ったんです。

わかりやすいほうがいい

 −−それにしても、華々しいですね。二十五年の永年在職の表彰ははねつけるし。

 小泉 今度の表彰辞退だってね。表彰を楽しみにしてる人から見れば、いやなことしてくれたと思うのも無理ないよね。

 私の父(小泉純也・元防衛庁長官)も、この表彰を受けるのを楽しみにしていた。それを知っていますからね。

 −−素直じゃないなあ、と思っている人も少なくないでしょう。

 小泉 そうだろうなあ。みんなわかるんです。いかに楽しみにしているかということが。

 −−過去に三人、辞退表明しています(成田知巳、伊東 正義、渡部一郎の三氏。いずれも故人)。

 小泉 でも、辞退したのは肖像画だけですよ。

 −−ええ。三人とも在職中に支給される特別交通費(現在は月額三十万円)はもらっていました。

 小泉 表彰状も受けている。今回、意外だったのは、表彰だけは受けてくれという人が非常に多かった。現職議員から、元議員から。肖像画と特別手当は辞退してもいいから、表彰だけは受けてくれといってきた人がずいぶん多かった。

 −−惻隠の情で、肖像画だけは受けて自宅に飾っておいてもよろしかった。

 小泉 いや。私は、二年前から表彰制度そのものが要らないと主張してきた。こういう場合は、わかりやすいほうがいい。どれを受けてどれを辞退するというより、全部辞退するのが一番わかりやすい。

 −−その通りです。これはご自分の発案ですか。それともだれかに入れ知恵されて。

 小泉 私自身の発案。自民党が野党になったとき、自民党の一、二回の当選議員が、もうこの表彰制度は要らないと幹事長に申し込んだことがあるんですよ。

 −−そうでしたか。

 小泉 そうしないと、なかなか長老が引退してくれないと。あと一回当選できれば二十五年の表彰を受けられるんだと長老が頑張る。そうすると、若手はそれまで待たなきゃならない。そういう苦労をしてきた若手がいたわけだな(笑い)。

 −−あ、そういうことか。

 小泉 表彰がなければ、年がきてもそういう楽しみはないから引退も早くなるんじゃないかと。

 永年在職表彰というのは、議員の既得権益なんだ。ほかの政党が反対しても自民党が提案すればいいじゃないか。そういって若手議員が当時の幹事長に申し入れていたんです。それに私も賛成していた。うん、それはいいことだなと。

 ところが、「あんたたちはもらえる可能性が少ないから、そんなことをいっているんだ」と一蹴されたわけだ(笑い)。

 −−手が届かないから、いえる。

 小泉 それで私は総裁選の演説会で、こういったわけです。

 私は表彰される可能性がある。楽しみも知っている。祖父も父ももらった。私が受ければ、憲政史上初めて三代が表彰を受けることになる。しかし私は次に当選しても辞退する。辞退するのは前例ないというけれど、もらっても親子三代受賞という前例のないことになるんだと。

 −−世襲議員の後ろめたさも、若干あったのでは。

 小泉 そういうことじゃない。

 −−小泉家で七十五年を超える歳月、議席を独占している。

 小泉 独占でもない。私は、落選したことがありますからね。選挙という試練を乗り越えてきたんだ。

 −−小泉さんの強気発言も、選挙に強いからでしょうね。

 小泉 いや、そうじゃない。最初落選したように、選挙は弱かったですから。よくこういうこといえるなというけれども、弱いときからいってきた。民営化論も。

 −−知りませんでした。

 小泉 選挙に強いからいっているんじゃないです。関係ないですよ。

 だって私、小選挙区比例代表制、反対していたでしょう。落選しても比例で当選させるのはおかしい。それで比例には出ないと。

 当時全部比例に出なきゃいけないときに、小泉だけは小選挙区で戦うのはけしからんと批判が出た。党が決めても、私はあえて比例には出ない。小選挙区一本。落選したらそれでいいといっていたでしょう。

 当時、なんで小泉はこの選挙制度改革に反対しているのか。中選挙区だったら当選できるけれど、小選挙区になったら落ちるから反対しているんだといわれた。

 −−佐藤孝行さんの問題も小選挙区で当選していれば、あれほどの騒ぎにはならなかった。比例による敗者復活というのは、やはりおかしいと思います。

 小泉 有権者をばかにしていますよ。落選させたのに、いつの間にか当選しているなんて。

 −−まあ、あれは妥協の産物、いずれ消滅するでしょう。

 小泉 選挙制度というのは、何回かやらないとね。まあ、少なくとも重複は直したほうがいいな。

郵政三事業の民営化について

 −−時々、小泉郵政大臣かと錯覚するぐらい、郵政には熱い思い入れがありますね(笑い)。

 小泉 当たり前じゃないですか。いま、行政改革で官から民へという、役人がしなくていいものは民間へ任せよう。これ見たって郵政三事業は全部民間でできるじゃないですか。なんで役人がやってなきゃいけないのか。

 国家独占の郵政三事業。民間がやってないのは封書とはがきの配達だけですよ。いま小包は全部民間でできる。封書、はがきだって民間でできるからやらせてくれというのにやらせない。常識で考えたって、郵貯簡保は民間でやっている。全部民間でできるのをなんで役人がやっているんだ。

 役人を減らすことに、みんな賛成する。役人を減らすなら、役人の仕事を減らさなければならない。役人の仕事をふやしといて役人を減らしたら、残った役人がかわいそうですよ。これは常識ですね。

 −−そこまでは、同感です。

 小泉 郵政三事業というのは、財政投融資制度と特殊法人の整理統廃合と全部つながってくるんだ。いままで行政改革というと特殊法人の整理統廃合ばかりいっていた。これははしっこですよ。出口。枝葉ですね。

 幹は財政投融資制度。この財政投融資から資金が行っているから特殊法人が事業展開できる。その資金はどこから来てるのかというと郵貯簡保、年金がもとなんですよ。これ、一体でとらえないとだめです。

 そして勝手に特殊法人がいろんなことやって、債務、赤字は税金でみてくれと。この赤字は郵貯簡保、年金で処理しなければならないんだけど、郵貯簡保、年金に罪はないというので国民が負担しろということになったわけです。この構図を国民に理解してもらうのは大変だ。

 この構造を放置していると、いくら増税していいのかわからない。増税を阻止するためにも、この構造を変えないとまたとんでもないことになる。

 増税はできない。三%、五%の消費税でもあれだけ反発があった。借金してきた。借金もこれまた二百五十兆円を超えている。毎年、毎年利払いで納税者は苦しむようになった。借金もできない。

 だから行財政改革が争点になったんですよ。総論賛成。各論反対。役人の仕事を減らす。役人の権限をなくす。どれも役人が反対しているからできない。自民党も含めて全政党反対だ。

 郵政民営化。反対してくるんですよ、郵政省の役人が。郵政省の役人がOKすれば収まっちゃいます。わずか三十万人たらずの役人集団に政界全部振り回されている。郵政民営化の問題は、行政改革と同時に政治改革なんです。それを何回いっても、選挙で応援されているからみんな黙っちゃう。最も大事な急所なんです、行財政改革の。

どの政党もいえない

 −−反対論者は、「財投でアメリカの国債を買っている。それでアメリカもニコニコしている」という。

 小泉 民間だってアメリカから国債を買っているじゃないですか。なんで民間じゃいけないんですか。

 −−民営化されて通信の秘密性が守れるかどうか、とも。

 小泉 NTTの電話、民間ですが、通信の秘密守れないですか。FAX、あれはもう手紙、はがきどころじゃないですよ。FAXは民間でやっている。なんで通信の秘密が守れないんですか。とんでもない。

 それに電報。電報は秘密守れなくていいですか。小包は秘密守れなくていいんですか。電報であろうが、小包であろうが、秘密はちゃんと守ってもらいたい。そして実際、十分守られてる。なんで役人がやらなきゃ秘密は守れないんですか。

 −−そして、郵便局というのは、地域社会の核です。地域のともしびを消してはならないと。これは説得力があります。

 小泉 それは民営化で郵便局がなくなると誤解している人の弁だ。私は民間人がやればいいといっているのであって、郵便局をなくせといっているんじゃない。

 いま郵便局は全国で二万四千局ぐらいでしょう。特定局で一万八千局ぐらいかな。

 ところが郵便局はコンビニなどに自分たちの仕事を扱ってくれと頼んでいるわけでしょう。

 民間に任せたらいまの郵便局よりもっと増えますよ、仕事は。サービス競争が始まります。その証拠に小包に民間参入したために郵政省の小包が値上げできない。大口割引しないと民間に仕事を取られちゃう。国家独占の封書、はがき、値下げしたことない。そうでしょう。

 同じ仕事をしながら民間はちゃんと利益を上げている。いい商品を提供している。法人税も納めている。固定資産税も納めている。設備投資も自分の金でやっている。

 郵政省は民間と同じにしながら税金を納めない。そして去年なんていうのは四時間勤務の公務員をつくった。短時間公務員。アルバイトを公務員にした。この行政改革の時代に。そうして民間のクール便がいいとなると、同じことをさせてくれと、予算を要求して設備投資する。

 これじゃ民間の経済を活性化しようたって無理ですよ。民間がどんどん税金を納めてくれる仕事を役人がやって税金も納めないんだから。

 −−民営になったらヤマト運輸とか佐川急便とかが、結局、独占していくんでしょうね。

 小泉 いや、一社じゃないですから。複数ですから、競争させればいいんです。

 封書とはがきも民間参入させなさいといっているけれども、絶対認めないでしょう。なんで国家独占なんだ。この規制緩和の大合唱のなかで、なんで参入を規制するの。こんな常識でわかっていても、どの政党もいえない。そのほうがおかしい。

 選挙が怖いんですよ。自民党は特定局長会。社民党民主党全逓労働組合新進党は全郵政。共産党はもともと国営論だし。三十万の職員が選挙で与野党を応援する。これで動きがとれなくなっちゃう。

 −−いわれているほど、郵政一家に票はないと思いますけど。

 小泉 議員にとってみれば、見える票がほしいわけですよ。投票に行くか行かないか、あてにならない票よりも、実際選挙で出してくれるものが何千票でもほしいんです。

 −−票にうろたえる議員心理を叩き切るほうが先決ですね。

 小泉 だから、これは政治改革だといっているの。政党は一特定団体の代表じゃないんだ。一部特定の団体よりも全体の利益を考えなきゃいけない。それが政治家であり、政党である。それがだんだん組織化されて、一部特定支持層に注意が向いちゃう。

どっちを取るか

 −−小泉さんは、厚生大臣としてではなく国務大臣としてご発言されている。

 小泉 それはそうです。そのつもりで厚生大臣になっているわけです。国務大臣であり、厚生大臣だと。

 −−それはそれで結構ですが、厚生行政のほうも、よろしくお願いします。

 小泉 厚生省だって医療改革で大変ですよ。みんなが痛みを分かち合う。製薬業界からも反発される。医師会からも反発される。連合からも反発される。日経連からも反発される。国民からも反発される。それぞれに痛みを分かち合ってくださいというのに、ほかの省庁が痛みを分かち合えないなんていうのはとんでもない。

 −−前の厚生大臣管直人氏)はスタンドプレイの名手でした。

  小泉 フフフ。

 ほかの行革を一生懸命やりながら、一番大事な郵政だとどの政党も黙っちゃう。おかしいですよ。おかしいと思わないほうがおかしい。

 −−エージェンシー(独立行政法人)というクセ球が飛び出して、大臣もいくぶん軟化された。

 小泉 私の主張が百パーセント通るなんて思っていません。一番いいのは、いま民営化すればいいんだけど、郵政民営化委員会をつくるだけで行政改革、財政構造改革、経済構造改革、金融制度改革、この四つがぐーっと進んでいくんですよ。

 民営化の突破口ができればいい。民営化の道筋をつくること。国務大臣の一人の力というのは、大きいからね。これはやっぱりやってみる価値がある。どこまで闘えるか。一人が反対すると閣議決定にならないですから、一議員とは相当違いますよ。

 −−その前に罷免される。

 小泉 そこのところまでやる。

 −−そのときは政変の可能性あり、です。

 小泉 総理は、私をあえて留任させた。ということは、やはりこの郵政民営化の突破口をつくろうとしているんだなと思います。私の意見を取ると党内から大反発がくる。で、私を退けた場合にどういう行財政改革がうまくいくのか。どっちを取るかですよ、総理は。総理は最終的には、私が辞めるような結論は下さないだろうと信じているんです。

 −−本誌が書店に並ぶ頃は、どうなっていますやら。まあ、橋本さんもちょっと腰のふらつくときがありますけど。

 小泉 これだけ反発があるとね。全部が反対しているんだからな。しかし総理の力は強いですよ。そこを見極めなきゃ。郵政省の役人がOKしたら、いまの自民党内の反対なんて十人いるか、いないか。役人が反対運動を動かしてるんですから。

 −−たいしたもんですね。

 小泉 たいしたもんだよ。郵政三事業で郵政省幹部は、政治家を使うコツを覚えちゃったんですよ。選挙を応援することによって。

 −−わかったんですね。

 小泉 うん、覚えちゃった。この三十万人の職員が選挙で与野党を応援することによって、これでもう政界を動かせるなと。政治家をうまく利用できるなと。

わからない保・保連合

 −−しかし国務大臣といえども、自民党幹事長には太刀打ちできない。歯がゆいでしょう。

 小泉 べつに。国務大臣としてできるだけやってみる。全部敵の中で私一人どこまでできるか。

 −−YKK(山崎拓加藤紘一小泉純一郎)ってなんですか。

 小泉 同期生だしね、仲良くやってきたわけだから、気心しれてますよ。

 −−そもそもYKKというのは、平成三年にアンチ経世会を旗印にトリオを組んだはず。いまは完全に経世会に取り込まれたようですね。

 小泉 ま、変わってきましたからね、経世会も。それは橋本さんだって経世会で全然小沢さんの時代には孤立していたでしょう。変わっているんです、経世会自体も。

 −−YKKというのは一枚岩のように見えて、そうでもない。小泉さんが総裁選に出ても、YKは全然、応援しない。

 小泉 そう、応援しない。それでけんかするわけでもない。不思議でしょう。

 −−気が合うんですね。

 小泉 そうなんですよ。政治家ってのは、政策で対立する場合がしょっちゅうあるんです。ある場合には賛否に分かれるけれども、ある場合には協力する。政策ごとに分かれたりついたりしたら、しょっちゅう離合集散しなきゃならない。

 −−いやなやつでも、政策面ならニッコリできる。

 小泉 そう。いやなやつだって政策が合えば手を握る場合があるでしょう。新生党社会党が手を握ったでしょう。小沢さんは嫌いでも、反自民協定で手を握ったわけでしょう。で、細川政権ができた。最も反自民の急先鋒の社民党がとても小沢さんについていけないとなると、自民党と手を握る。

 −−しかし、所詮は好き嫌いの世界。

  小泉 好き嫌いなんてわからないですよ、政界の場合は。好き嫌いが意味をなす場合もあるし、全然関係ない場合もある。その時点、その状況次第。好きだからといっても分かれなきゃならない場合もある。兄弟で政党が分かれる場合もある。昔から親子で殺し合う場合も、兄弟で殺し合う場合もあるわけです。似ているんですよ、政治というのは。

 −−同じ三塚派でも亀井静香さんや塚原俊平さんは橋本さんを応援しましたものね。

  小泉 うん。

 −−保・保連合ってなんですか。

 小泉 わからんね。ま、小沢さんと協力しようかっていうところでしょう。

 −−YKKが目障りなんですよ。

 小泉 うん。

 −−小沢さんって、どういう人ですか。

 小泉 よくわからない。経世会時代から、私はそんなに親しくなかったんです。

 −−同じ昭和十七年生まれ。同じ慶応大学。

 小泉 私は福田派でね、彼は田中派だったでしょう。

 −−当選回数は?

 小泉 小沢さんが一回上なんです。初出馬で小沢さんが当選して、私は落選しました。

 −−松野頼三さんが小泉さんを高く買っていました。「一度はさせたい。郵政三事業だけに見えるが、国民的人気が出てきた。一つのタマだ」と。

 小泉 当選以来、いろいろ教えてもらいました。私は松野さんが好きなんですよ。非常にわかりやすく説明してくれるし。政局観も鋭い。

橋本首相にやらせるのが一番いい

 −−ある政治ジャーナリストに小泉評を聞きましたら、「欲がないのが欠点」だそうです。政治家になったら、総理大臣の座をもぎ取るぐらいの迫力がないといけないと。

 小泉 全くそうだ。

 −−だったら、目指すべきでしょう。

 小泉 いや、いや。大臣だっていつ辞めてもいいんだよ。

 −−怖いものなし、か。

 小泉 怖いものなしというかね、やらなきゃならないことはやらなきゃいかんと思っています。

 まあ、祖父や父の顔に泥を塗らないように一生懸命やるという気持ちは強かったな。

 −−小泉さんが師と仰いだのは福田赳夫さん。福田さんに傾倒したゆえんは何でしたか。

 小泉 父が福田先生を信頼していたから。何かあった場合、福田先生を頼れと父からいわれていました。

 福田先生のところで修業できたことが、私にとっては非常に幸運だったんですよ。

 −−小泉さんは意外に派閥を大事にされる方ですね。

 小泉 そうですよ。私、いままでね、政務次官にしても、委員長にしても、大臣にしても、人をおしのけてなったことは一度もない。全部人を推して。

 で、かちあった場合、じゃ、どうぞお先に。私、反対した人いないです。政務次官人事でも、部会長人事でも、委員長人事でも。

 −−刊行が始まった『佐藤栄作日記』四巻、五巻を読むと、総理大臣時代、佐藤さんのところに大臣病患者がしょっちゅう訪ねて来る。で、佐藤さんは日記に「うるさい」「困ったものだ」と何度も書いている。小泉さんは、そういう経験はなしですね。

 小泉 うん。

 −−うらやましい。

 小泉 ちゃんといままで派閥の中で、それなりの活動はしてきましたから。だから私が要求するときは、あんまり文句いわないです。

 −−いうときはいう。

 小泉 いうときはいいます。

 −−派閥の領袖、三塚博さんに直言しますか。

 小泉 直言しますよ。森さんに対しても。

 −−橋本首相に対しても。

 小泉 そうですよ。考えてみれば、ずいぶん失礼なことをいってるな、面と向かって。去年の八月には、「あんたとは手法が違う」ということで別れてきたんだけどね。あんないやなことをいっても、私を起用する。不思議だね。

 −−またぞろ経世会が小渕(恵三)外相をポスト橋本に押し込もうとしています。ああいうたらい回しはどう思いますか。

 小泉 それはもうだれでもいいですよ。問題は行財政改革ですから。郵政民営化は避けて通れないですから。これに反対する総理はだれでもすぐつぶれますよ。

 −−佐藤栄作首相だったら、断行したかな。

 小泉 無理でしょうね。

 これだけ役所が動いて、選挙で政治家を押さえちゃって、無理です。

 だから橋本さんにやらせるのが一番いいんです。

 −−橋本さんだけ?

 小泉 いまはね。

 −−ポスト橋本を探したら橋本がいた、という話がありますけど(笑い)。

 小泉 これできなかったら、次の総理だれがやっても倒れます。またすぐ。これを避けてたら。増税路線へ行きますから。増税反対でしょう。増税を避けるためにいっているんだから、私は。それがなかなか理解されない。増税はよくないという点ではみんな賛成なんです。各論で郵政民営化になると、これも反対なんだ。

十年経ったらいつ辞めてもいい

 −−どうして再婚しないのです?

 小泉 二度と離婚するのはいやだから。結婚するエネルギーが一だとすると、離婚するエネルギーは十以上ですよ。

 だれだって離婚はしないと思って結婚するんです。それでも離婚した。人間の心はわかりませんよね。天地神明に誓って、神様の前だろうが、仏様の前だろうが、キリストの前だろうが、永遠に愛しますといって、別れるわけだから。離婚したくないなら、結婚しないのが一番いい。

 −−不自由じゃないですか。

 小泉 べつに。

 −−政治家を辞めたら何をやりたいですか。

 小泉 のんびりしたいね。祖父が晩年、盆栽いじりをしていた。朝顔を植えたり、ニワトリや小鳥を飼ったいた。あるいは花札とか、麻雀を楽しんでいた。悠々自適だったなあ。ああいうのいいなあ。

 −−それにオペラ鑑賞。

 小泉 そう。

 −−オペラに造詣が深いそうですね。

 小泉 うん。私の知らない曲がたくさんあるから楽しみだよ。引退したら、オペラにしてもクラシックにしてもたっぷり聴きたい。

 −−ご自分の定年を考えていますか。

 小泉 そうね、できたら早く引退したいね。元気なうちに。

 −−七十歳ですか、定年は。

 小泉 おやじは六十五で亡くなったんです。だから六十五ぐらいまでは、精一杯頑張ろうかな。

 −−まだ十年あります。十年あれば、相当大きな仕事ができます。

 小泉 うん。できる。で、十年経ったら、いつ辞めてもいいな。

 【インタビューを終えて】厚生大臣室で厚生大臣にお話を伺っていたのだが、ごらんのように厚生行政についてはあまりふれることがなかった。小泉さん自身、いまや国務大臣として橋本内閣の行革、とりわけ持論の郵政民営化論に政治生命をかけておられるのだから、これまた当然のこと。持ち場をしっかりやれ、といったヤジはつつしむべきだ。

 小泉さんの論法は、どれもこれもわかりやすい。それなりに説得力もある。小泉人気が高まるゆえんでもある。ただ、政治の世界においては、えてしてわかりやすいものほど、抵抗が激しい。実現性もとぼしい。それほどものごとというものは、単純ではないからだ。

 それを小泉さんは十分知ったうえで、大胆なパフォーマンスを展開する。結構、この人は緻密である。坊ちゃん政治家ではない。古風なところもある。子分をつくらないところが、子分をつくれない橋本さんの気に入ったのだろう。
http://www.sankei.co.jp/pr/seiron/koukoku/1998/9801/interview.html