感染疑いのスーパー種牛の「忠富士」 殺処分に(毎日新聞)

口蹄疫:感染疑いのスーパー種牛の「忠富士」 殺処分に

宮崎県で口蹄疫が多発している問題で、農林水産省と県は22日未明、国の特例措置で同県西都(さいと)市に避難していた「宮崎牛」のエース級種牛6頭のうち、最も精子供給量の多いスーパー種牛「忠富士(ただふじ)」が感染している疑いが強いと発表した。22日以降に殺処分される。家畜伝染病予防法は、同じ農場の家畜の殺処分を義務付けているが、県は国と協議して、残る5頭については経過観察措置とした。

 忠富士など6頭は、県畜産改良事業団(同県高鍋町)が人工授精用に生産する冷凍精液の主力牛。年間15万本のうち6頭で全体の約9割を賄っていた。特に忠富士は、最大量の年間3万7900本の冷凍精液を供給。

 事業団では6頭を避難させた2日後の15日に感染が確認され、次代を担う種牛や、引退した「安平」など49頭を含む308頭が殺処分される。

 県の畜産再興を担う6頭のうち、スーパー種牛を失うことに関係者には衝撃と落胆が広がった。

 県庁で会見した高島俊一・県農政水産部長は「事業団にいる時に感染した可能性が高い。県畜産界のエースを失った。大変申し訳ない」と陳謝した。【小原擁】
 ◇ことば・忠富士

 約22万頭の子牛の父となったスーパー種牛「安平」の遺伝子を受け継ぐ宮崎市産の種牛。913キロの大型で、生殖適齢期の7歳。肉質は霜降りが多く、肉に厚みがあり、ステーキなどに使われるロース肉が多く取れる。昨年の県畜産共進会肉牛の部でグランドチャンピオンに輝いた。
 ◇「ショックが大きすぎる」三重の松阪牛関係者

 三重県松阪市松阪牛連絡協議会副会長、瀬古清史さん(61)は約500頭の肥育牛を育てているが、その半数が「忠富士」から生まれた子牛だ。

 「ショックが大きすぎる。6頭の中でも、忠富士は性格が優しくておとなしく、健康で大きくなりやすいし、霜も入りやすい。三拍子も四拍子もそろった牛だった」と声を落とした。

 「宮崎とは付き合いが長かったので、6月ごろまでは何とか耐えたいと思っていた。でも一番大切な種牛がやられてしまった今、他県からの買い付けを早く検討しないといけない」と話す。
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100522k0000e040025000c.html?link_id=RSH05

種牛「忠富士」が感染、残る5頭も同じ畜舎
 宮崎県産の種牛1頭が口蹄疫(こうていえき)に感染した問題で、感染した種牛によだれなどの口蹄疫特有の症状が出ていることが22日、分かった。

 農林水産省と県は、同じ畜舎にいる残り5頭についても感染の恐れがあるとみて、今後、遺伝子検査を行いながら経過観察する。感染した種牛は同日中に殺処分される。松阪牛など全国のブランド牛を支えてきた宮崎牛の種牛が絶える可能性が出てきた。一方、同省などは同日午前、家畜の移動制限区域(半径10キロ圏)内で殺処分に向けたワクチン接種を始めた。

 22日未明に県庁で開かれた記者会見で県幹部は「ほかの種牛も厳しい。感染していれば宮崎牛は壊滅だ。深刻な事態になった」と説明。山田正彦・農林水産副大臣も読売新聞の取材に、「赤松農相や知事と協議するが、殺処分もあり得ないわけではない」と語った。

 同省などによると、感染が判明したのは「忠富士(ただふじ)」という7歳の種牛。動物衛生研究所(東京都)で行った4回の遺伝子検査で、直近の19、20日に採取した検体に陽性反応が出た。

 6頭は、県家畜改良事業団(同県高鍋町)が一括管理してきた55頭のうち最後の種牛。高鍋町周辺で感染が多発したため、今月13日、種牛を守るため、西都市畜舎に特例として避難させていた。49頭は殺処分された。残る5頭は22日午前現在、忠富士と同じ畜舎で飼育されている。

 これまでの遺伝子検査の結果はすべて陰性だった。家畜伝染病予防法では、感染牛と同じ畜舎にいる場合は殺処分対象となるが、県は特例として21日から10日間の観察期間を設定。経過観察期間の初めの1週間は、毎日、遺伝子検査を実施する。

 一方、22日に始まったワクチン接種は、まだ感染が確認されていない農場の約16万5000頭が対象。殺処分が前提だが、埋却場所が確保されるまで、ワクチンにより感染拡大を防止する目的。ウイルスを拡散させないように、これまで感染した牛や豚の殺処分作業に従事していない県外からの応援組を中心に約30人の獣医師が担当する。県などは「農家の同意を得ながら、3〜4日で終わらせたい」としている。

 県は、対象地域の外側から内側に向かって接種を進めることで感染の広がりを抑える方針で、この日は宮崎市と木城、高鍋町の養豚農家計7軒で、約1万9500頭の豚に接種する。
(2010年5月22日14時22分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100522-OYT1T00422.htm